婚前同居~イジワル御曹司とひとつ屋根の下~
サラッと怖いことを言いながらニッコリと微笑まれて、私は完全に竦み上がる。
なのに、樹さんは更に意地悪に畳み掛けてきた。


「奇しくも今日は週末だしね。まあ、夜を楽しみにしておけ」

「よ、夜ってっ……!!」

「夜が嫌なら、ここでもいいけど?」

「っ……!」


思わず目を剥いた私の前で、樹さんはテーブルの上の書類を手元でまとめた。
そして、ガタンと音を立てて立ち上がる。
ほとんど条件反射で身体を竦ませた私の後ろを通り過ぎながら、「今日はここまで」と樹さんは素っ気なく言った。


「全然身にならない勉強会続けても無駄だしな。俺も暇じゃないんで、先に仕事に戻らせてもらうよ。帆夏、その顔、少し冷まして来い。完熟トマトみてえだから」

「~~っ……!!」


声に詰まって返事も出来ない私を肩をゆすって笑いながら、樹さんは私に背を向け会議室から出て行ってしまった。


広い会議室にポツンと一人取り残されて、私はようやっとホッと大きく息をついた。
さっきから壊れそうなくらい高鳴っていた胸をそっと撫で下ろしてから、火照って熱い両頬を手で押さえる。


そおっと、なんとなく自分の髪を指で一房摘み上げた。
さっきまで散々樹さんに触られ弄られていた髪を見つめて、はあっと肩を落として溜め息をつく。
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