婚前同居~イジワル御曹司とひとつ屋根の下~
素っ気ない返事がとても冷たく心に響く。
どこまでも、なにもかも私とは温度差がある樹さんの心が、いつもよりずっとずっと遠く感じた。


だから私は黙るしかない。
なにも言えないまま、ただヒクヒクとしゃくり上げて、私は必死に涙を止めようとしていた。


けれど……。


「……帆夏、頼むからもう泣くな。きっと泣かれると思ってたから、今まで柄にもなくゆっくり進めてきたんだから」


続いた言葉に、私は一度大きくヒクッとしゃくり上げてから目を見開いた。


「……え?」


まだ涙をたっぷり湛えた目で、そおっと背後の樹さんを見つめる。
彼は私に背を向けて、肩を落としながら息をついた。


「……押し付けられた『婚約者』だから、俺の意志もお前の準備不足も気にせず、さっさとやることやってよかったのに。帆夏に泣かれたくなかったから、今まで待ってた。……お前を気遣うとか、俺にとっては結構ありえないことだったのに……」


ボソボソと不貞腐れたような声で呟いて、再びガリッと頭を掻いてから、樹さんはベッドを軋ませながら床に立ち上がった。


それにつられて、胸元に搔き集めたブラウスを片手で握り締めながら、私もゆっくり身体を起こした。
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