婚前同居~イジワル御曹司とひとつ屋根の下~
こんな時でも意地悪に私をからかいながら、樹さんは面白そうに肩を揺すり始める。


「……それって……私がほとんど0歳児と変わらないってことですか……」


むうっと頬を膨らませる私の頭を、樹さんは宥めるようにポンと叩いた。


「コイツは俺と違って、欲しい物全部与えてもらって、たくさんの大切な物に囲まれて幸せに育ってきたんだよな~って。だからこんなに図々しく気持ちぶつけられるんだろうって……今までずっと、腹立たしいけど羨ましかった」

「う……」


確かに樹さんの言う通りだから、私も言い返せない。
情けない気分で顔を俯けると、「でも」と樹さんが言葉を続けた。


「そんなお前に欲しがられるのは、気分がいい」

「え?」


短く聞き返す私を、樹さんは意地悪な目で覗き込んだ。
私が何度も瞬きする前で、樹さんはゆっくり私の手を解きスッと背筋を伸ばした。


「……お前が持ってるたくさんの大切な物の中で、俺が『なにより大切』って言われたのは、結構本気で嬉しかったんだよ」


意地悪な光が和らぐ。
今まで見たことのない柔らかい瞳の中に、私の知らない感情が籠ってるような気がして、私は樹さんを呆けたように見つめていた。


その視線があまりに不遠慮だったのか、樹さんは肩を竦めて私にクルッと背を向けた。
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