婚前同居~イジワル御曹司とひとつ屋根の下~
樹さんの言葉に吸い込まれるように聞き入っている新入社員の反応を確認して、樹さんは満足げに、ニヤッと意地悪な笑みを浮かべた。


『俺の宝になることを、社員に後悔させない社長になってやるから』


強気な宣言が会場に響き渡り、樹さんが壇上から降りても、彼の残した余韻に包まれていた。
司会者は一瞬呆気に取られ、会場の袖に戻った樹さんは、渋い顔をした社長からゴツンとゲンコツを食らっていたけれど……。


新入社員のざわめきが、さっきまでとは違うものに変わっていた。
樹さんのルックスで騒いでいた女子たちも、『カッコいー』と溜め息混じりの称賛の声を漏らしていた。


そして私は、そんな中で、一人大きく鼓動を轟かせていた。


樹さんが、誰もが目を奪われるイケメンだったってことだけで、気持ちは無駄に舞い上がっていた。
なのに、あんな……力強く堂々と心を伝えてくれる男の人だなんて。


自信に満ちて、キラキラしてて……。
あんな素敵な人が、私の旦那様。
そう実感したら、きゅうんとときめいて胸が鳴った。


樹さんの姿を目にして、心の声を聞いたその時。


私、あの人の宝物になりたい――。


私は秒殺される勢いで、彼に恋に落ちたのだった。
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