婚前同居~イジワル御曹司とひとつ屋根の下~
二週間の新人研修を終えて、樹さんと同じ海上政策部に配属された私は、部長から直々に樹さんに紹介してもらった。
主に外航船の就航計画や航行管理を行う第一チームのリーダーでもある樹さんは、私にチーム業務についての指導係を命じられたのだ。


「彼女は生駒社長の娘さんだから。立場的にも春海君と通ずるものがあるし、業務以外でもいい先輩になってやってくれると嬉しいんだが」


部長はもっともらしくそう説明してくれたけど、ここにももちろん、私の父の根回しがされていた。
「はあ」と声を尻すぼみにしながら部長の命令に従った樹さんに、私は心臓をバクバクさせながら「よろしくお願いします」と頭を下げた。


緊張で強張りそうになりながら、必死に笑顔を向けた私からふいっと目を逸らし、樹さんは部長と私の業務指導について軽い打ち合わせを始めていた。


私に目もくれない樹さんからは、なんだか最初からあまり歓迎されていない空気を感じて、その涼しい横顔を戸惑いながら見上げていた、のだけれど……。


「最初に言っとくけど、業務以外でいい先輩はやらないから。俺」


四人定員の小さなミーティングルームでテーブル越しに向き合った樹さんは、資料を私の前に滑らせながら、開口一番でそう言った。
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