婚前同居~イジワル御曹司とひとつ屋根の下~
「えっ……」


突然なにを言われたのかと、何度も瞬きする私の前で、樹さんは不機嫌そうに眉を寄せた。


「社長の息子ってだけで、ちょっとミスすれば無能扱いされるわ、実績出して評価されればやっかまれるわ……。俺も入社してからずっとそういうの乗り越えてきてるんだ。これでも、一応。今も自分のことだけで手一杯。生駒の気持ちはわかってやれても、手助けするつもりは毛頭ないから。せいぜい逞しく生きろよ」


眉間に皺を刻みながら、表情も変えずに淡々と早口で私にそう言う樹さんからは、思った通り、全然歓迎されてないことが伝わってきたけれど。
私は背筋を伸ばして、「はい!」と気を引き締めて返事をした。


「そういうところは大丈夫です。心配しないでください。私、実際なにも出来ないし、無能だから。本当のこと言われたところで傷付かないし、正直言われ慣れてます。だから今は、出来る限り頑張ろうって思ってるだけです!」


拳を握って笑顔を浮かべてみたけれど、樹さんの眉間の皺は更に深く刻まれた。


「……天然? 鈍感?」

「え? どっちも言われたことないですけど……」

「ああ、じゃあきっと、お前の周りにいた人間、あまりに痛くて本人に言えない優しいヤツばっかだったんだ。幸せだったな、お前」

「……? はいっ」
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