婚前同居~イジワル御曹司とひとつ屋根の下~
さっきから一人周りの会話の流れについて行けず、ボーッと……と言うより完全に魂が抜けたように呆けていた樹さん。
もしかして、今自分がここで何をしてるのかも、理解出来ていないんじゃないかと心配だった。
でも、どうやらそこまでの心配は必要なかったらしい。


「樹さん。どうぞ、末永くよろしくお願いします」


彼のうわ言を遮るように、横から見上げながら立ち止まる。
どう見ても惰性のようにつられて足を止めた彼に、私は深々と頭を下げた。
再び頭を上げてニッコリ微笑んだ途端……。


「断る」


たった一言で即答された。


「えっ……。樹さん、そんな我儘、困ります」


あまりに無情な一言に焦って声を上げると、樹さんは戻ってきた魂を全身に漲らせるかのように、くわっと眦を裂いた。


「我儘!? 俺が!? なんで! 当然だろ!!」


血走った目で私を睨みつけ、すごい力で両肩を掴んできた。
そのまま、怒りに任せて私の身体を勢いよく揺さぶり始める。


「おい。その腹立たしいくらい平然とした顔はなんだよ。生駒、お前は知ってたのか!?」

「う」


ゆっさゆっさと乱暴に揺さぶられ、首がガクガクと前後に動く。
取れるんじゃないかと思うくらいの力に、私は小さな声を漏らした。
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