婚前同居~イジワル御曹司とひとつ屋根の下~
再び元気に返した私からスッと目を逸らし、樹さんはそれはそれは深い溜め息をついた。


「あの……なにか?」


樹さんの溜め息が不安で声をひそめて訊ねると、樹さんはヒラヒラと手を振って私を制した。


「いや、なにも。気にするな」


一言だけそう言って、気を取り直したように資料を捲り、私にページを指示してくる。


「あ、あの……でも、ご心配、嬉しいです。ありがとうございます」


指で資料を捲りながらそう付け加えてお礼を言うと、「心配なんかしてない」と、間髪入れずに素っ気ない一言が返された。


「生駒って、語感を読めって言っても読めない人間みたいだから、キツいのを承知でズバッと言っておく」


樹さんはそんな前置きをして、再び私にまっすぐ目を向けた。
深く黒い瞳に真正面から射抜かれて、私は鼓動を弾ませながらピシッと背筋を伸ばした。


「はい、なんなりと」

「俺ね、本当は迷惑だから。同じような立場の後輩が、俺と同じ部署にいるってだけで」

「えっ……」


前置き通り直球で言われた『迷惑』って言葉が、私の胸にグサッと刺さった。
それが表情に出てしまったのか、樹さんは私から目を逸らして横に流す。
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