婚前同居～イジワル御曹司とひとつ屋根の下～
「言ったろ。これでも俺、苦労してるの。お前がなに言われても気にしないのは勝手だけど、俺も陰で同じ見方されてるってこと、いちいち思い知らされてムカつく。だからいいか。俺の周りをうろつくな。俺の半径二メートル以内には入ってくるな。言いたいことは以上」


一方的にそう言い捨てて、樹さんはすぐに頭を仕事モードに切り替えたようだった。
私も開いたページを手で押してから、「でも」と唇の先で呟いた。


「ごめんなさい……それはちょっと困るんです……」


私は軽く目を泳がせながら呟いた。
「え？」と短く聞き返されて、私は思い切ってまっすぐ彼を見つめた。


「私、樹さんに一目で恋してしまったんです……」


はっきりそう告げた瞬間、樹さんは大きく目を見開いた。


「ですからその……むしろ、半径二メートル以内の距離に置いていただきたくて……」

「……なんだと……？」


ジッと穴が開くほど見つめられ、呆けたような声で聞き返されて、私はポッと赤く染めた頬を軽く両手で押さえた。


「樹さん、好きです。私を樹さんの宝物にしていただけないでしょうか……」

「嫌だね」


一瞬前には呆けていたはずなのに、樹さんは恐るべき切り替えの早さで、私に即答した。


「えっ、そ、そんなっ……」


瞬殺で振られてしまった。
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