婚前同居～イジワル御曹司とひとつ屋根の下～
父が言った通り、私にとって最良のご縁談。
今では素直に、樹さんとの結婚で私の幸せは保証されたって思っていたのに。


どうしよう。こんなに取り付く島もなく振られるなんて。
樹さんは知らないと言っても、私は彼の婚約者で、呑気に振られて終わりには出来ないのに……。


さすがに目の前が真っ暗になって、一瞬クラッときた。
そんな私に、樹さんが蔑むような冷たい視線を向けていた。


「ここはオフィス。業務時間中だから、ふざけたお遊びはここまでにしておこうか？　生駒社長のお嬢さん？」


頬の筋肉をピクピクと引き攣らせながら、樹さんはそれでも皮肉気な笑顔を向けた。


「コネ入社で打っても響かない性格なのはわかったけど、俺にとっては大事な職場だ。……いずれは俺が指揮する大事な会社だ。本気じゃなくてもやる気くらい見せろ」

「っ……」


その言葉を真正面から受け止めて、自分が恥ずかしくなった。


私がこの会社に入社したのは、樹さんと早く出会いたかったから。
会社の為の政略結婚でも、私が大事なのはこの先の幸せで、会社ではない。
仕事への意気込みよりそっちの方が大きいことを、見透かされてしまった気がした。
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