婚前同居~イジワル御曹司とひとつ屋根の下~
どうやら、その『どっかのボンボン』が自分のことだとは思ってないみたい――。


裏で成立している婚約に気付いた様子でもなく、私はホッと息をつく。
私と目が合うと、彼の方から先に逸らした。


「あの……それは、やっぱり心配して言ってくれてるんでしょうか……?」


上目遣いで探るように訊ねると、樹さんは一瞬黙り込んだ後で、ちょっと皮肉気に口角を上げた。


「俺にそのつもりはないけど、受け取った側がどう感じるかは自由なんじゃねーのか」


その意地悪な微笑みに、私の胸がドックンと大きく鼓動のリズムを狂わせた。
私の胸の高鳴りなど全く気付かずに、樹さんは資料の文章に目を走らせる。


「いい加減、始めるぞ。うちのチームが管理するのは、主に運輸局の認可を受けた外国貿易船の就航で……」

「……やっぱり、好き……」


彼の説明を聞きながら、私は無意識に独り言を漏らしていた。
それがはっきり自分の耳にも届いて、慌てて両手で口を押さえる。
樹さんにも聞こえてしまったであろうことは、彼の説明の声がピタッと止まったことで十分わかる。
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