婚前同居～イジワル御曹司とひとつ屋根の下～

樹さんの口からは、深く長い溜め息が漏らされるだけ。
私は慌てて肩を強張らせながら、「すみません！！」と大声で謝った。


私ったら。業務中だって言われたそばから。
言ってもわからない、ふざけた新人だって呆れられる。
いや、もう完全に嫌われてしまうかもしれない。


「す、すみません……」


膝の上でスカートをギュッと握り締め、肩を震わせてきつく目を閉じた。


「つ、つい無意識で……」

「……お前、ほとんどゾンビだな。先輩の忠言も受け入れない、逞しいヤツ。お前なら陰口叩かれて荒波に飲まれても、図太く生き延びられるだろうよ」


資料を手に持ち上げながら、樹さんは大きく足を組み上げた。


「あ……えっと……ありがとうございます……？」


褒められている……とは思わなかったけど、『逞しい』って言葉に悪い気はしなかったから、私は語尾を上げながらお礼を言った。


「褒めてねーよ」


樹さんは椅子に深く背を預けたまま即ツッコミを入れ、チラッと私を見上げて、


「……お前、バカ犬だな、マジで」


なんだかしみじみとした口調でそう言って、眉を寄せながら肩で息をついた。