婚前同居~イジワル御曹司とひとつ屋根の下~
そりゃあ……こうやって真下を見下ろした時、もっと胸にボリュームがあったら、お腹が見えることはないだろうけどさ。
足元が開けて見通しいいこともないんだろうけどさ……。


「女の子の肉体的欠陥を、シレッとジョークにするなんて」


むうっと頬を膨らませ、プリプリと文句を言いながら、私はすごすごとカウンターに戻った。
仕方ないから、自分の分のトーストだけ準備する。


「っ、くしゅっ……」


肩を竦めながらくしゃみをして、鼻をズッと啜ってから、インスタントコーヒーを淹れた。
こんがりきつね色に焼けたトーストに苺ジャムを塗ってダイニングに移動して、一人朝ごはんにありつく。


朝の情報番組のチャンネルに合わせぼんやりテレビを観ていたら、再び樹さんの部屋のドアが開き、すっかり出勤支度を整えた彼が、ネクタイの結びを調節しながらリビングに出てきた。
朝一番で目にした、いつもながらカッコいいスーツ姿に、私はもう条件反射で見惚れてしまう。


樹さんの方も私の視線など既に慣れっこで、気になるもんでもないらしい。
黒いカバンを手に、チラッとも私を見ないまま、無言でリビングを通り過ぎて玄関に向かってしまう。


「あっ……!」


トーストの欠片を慌てて口の中に放り込み、椅子から立ち上がってその背を追う。
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