婚前同居~イジワル御曹司とひとつ屋根の下~
「言い訳でもいいから、なんか言ってください! そうやって無関心でいられるのが、一番寂しいんですっ……」


きゅうっと肩を竦めて、樹さんの肩口にグリグリと顔を擦り付ける。
樹さんの身体からは、拒否も抵抗も感じられないけれど。


「……どうしたら、諦めてくれるのかねえ……」


彼は溜め息混じりでそんなことをぼやくだけ。
それがとても悲しくて、私は閉じた目蓋にギュッと力を込めた。


「好き……」


口癖と言われたし、何度言っても届かないとわかっていて、それ以外なんて言えば気持ちをぶつけられるかわからない。


「どうしたら、ほんのちょっとでも私に向き合ってくれるんですか。鬱陶しがられてるのはわかるけど、どうしてそんなに私が嫌いですか」


きつく閉じた目尻から、涙が滲むのを感じる。
樹さんは黙ったまま大きな溜め息をついた。
そして。


「鬱陶しいけど、別に『どうして』って聞かれるほど嫌いでもない。そもそも、こんな政略結婚で好きも嫌いもないだろ」

「政略結婚じゃなくても、樹さん、最初っからそうじゃないですかっ……」

「そりゃ。俺の中で生駒の第一印象って、『甘ったれたふざけた女』で、問題外だったからね」

「っ……」


ズバッと向けられたその言葉を聞いた瞬間、樹さんの首に巻き付けた腕が力の入れ過ぎでプルプルと震え出す。
爪先立ちの体勢もキツくなり、腕の力を緩めた。
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