婚前同居~イジワル御曹司とひとつ屋根の下~
樹さんにとっては、私を黙らせる為だけの行為だとわかってるのに。
樹さんが仕掛けた初めてのキスはあまりに甘くて、私は無意識で彼のシャツの胸元をぎゅうっと握り締めていた。


気持ちがないとわかっているし、悲しくなるくらい切ないのに、このまま離して欲しくない。
なのに、信じられないくらい優しい余韻だけ残して、樹さんの唇は私から離れてしまった。


「あ……」


離れてしまうのが名残惜しくて、私は目をトロンと潤ませながら、樹さんの唇を追うように踵を上げてしまう。
けれど。


「……お前、俺に移りそうなくらい熱い身体してる」


樹さんは私の口を大きな手で押さえ付けて、フイッと素っ気なく顔を背けた。
そして、背中に回していた手で思いっきり私の額を押して、自分から私を引き剥がし、クルッと背を向けてしまう。


「酒盛りしてクダ巻いて人に絡んでないで、さっさと寝ろ。風邪、ぶり返したんじゃねーか」

「い、いつ……」

「俺にコピー取りなんかやらせたら、このくらいの意地悪じゃ済まねーぞ」


一度もこっちを振り返ってくれないまま、樹さんはそれだけ言い捨てて自分の部屋に入ってしまった。
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