婚前同居~イジワル御曹司とひとつ屋根の下~
風邪の功名と掠める想い
翌朝――。
樹さんの様子は昨日までと全然変わらない。
もちろん挨拶してくれるわけでもないし、私が黙ってるせいか、チラッともこっちを見てくれない。


どうしよう……。
無言のままで過ごしたくないのに、『おはようございます』のタイミングを逸してしまったせいで、なんて声を掛ければいいのかわからない。


昨夜……どんな顔して『おはよう』って言えばいいのかわからず、一晩中ドキドキしてた気がする。
起き出してからも一層緊張感を高めていた私とは、悲しいくらい温度差のある樹さん。


でも、樹さんが相変わらず素っ気ない以上、私まで黙っていたらこのままどんどん会話が失くなっていく。
そばに気配を感じるだけで心臓が飛び上がってドキドキしてるのに、私の方に目も向けてくれないままなんて……。


なんとか声を掛けないと!


「い、いいい……行ってらっしゃい!」


辛うじて玄関までお見送りに出て、超絶にどもりながらなんとかそれだけ言った私に、樹さんは眉を寄せて溜め息をついた。


反応してくれた。
それだけでもホッとする自分がいる。


「出迎えて『お帰り』も、見送って『行ってらっしゃい』もいらねーけど」

「い、い、いえっ……これはもう私の自己満に近いんでっ……」

「そんなどもって言われると、呪いの言葉でも掛けられてる気分になるから、遠慮する」

「うっ……」
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