婚前同居~イジワル御曹司とひとつ屋根の下~
樹さんに遅れてオフィスに着いてみると、やっぱり彼は全然いつもと変わらない様子でキビキビと仕事をしていた。
朝から意地悪されたせいで、オフィスではちゃんと樹さんに目を向けることが出来る。
私は朝から樹さんを気にしてチラチラと観察していた。


普通に見てるだけなら、変わらない。
いつもの『春海樹』のまま、明るく強気で堂々として。


だけど人の視線が逸れたほんの一瞬、目頭に指をやり眩暈を抑えるような仕草を、樹さんは午前中だけで何度もした。
いつも樹さんを見てる私には、その仕事ぶりが精彩を欠いてるのがよくわかる。


そして今、出勤してすぐ頼まれた大量のPDF読み込みを終え、預かった書類を手渡しで返した時。


「っ……」


手が触れたのは、ほんのわずかな時間。
だけど樹さんの手は、朝の比じゃないほど熱かった。


「い、樹さんっ……」


私から書類を受け取った樹さんは、すぐにシレッと椅子を回してデスクに向かってしまったけど、私はそこから立ち去れずに呼び掛けた。


「なんだよ。さっさと仕事戻れ」


私がメールで送ったPDFを確認しているのか、樹さんはパソコンモニターを注視してマウスを操作し始める。
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