婚前同居~イジワル御曹司とひとつ屋根の下~
もちろん私の方には目もくれない、けれど。


「今日はもう帰ってください。部長には私が伝えておきますから」


そう言って、横から手を伸ばすと、樹さんの手ごとマウスを持ち上げた。
しっかりと彼の手を握る格好になると、その手の熱さがよくわかる。


「なっ……」


私のいきなりの行動にギョッと目を剥いた樹さんが、持ち上がった手を見上げながら私を睨んだ。


「おい、なにするんだよ。離せ」

「離しません。樹さん、すごい熱ですから!」


強気でキッと睨み返して、私は空いてる手をここぞとばかりに樹さんの額に当てた。
更に彼が息をのむ。
けれどすぐに額に置いた手は振り払われ、マウスを取り上げた手も解かれてしまった。


「このくらい大したことないから。っつーか、オフィスだぞ。余計なことで話しかけてくるな」


樹さんは私からふいっと目を逸らし、マウスをデスクに戻してそう言った。


家で話しかけても、ほとんど無視じゃないか!と手を挙げて抗議したい気分……。
けど今は怒ってる場合じゃないし、とにかく、引き下がるわけにもいかない。


「子供みたいに駄々こねないでください! 無理してこじらせたらどうするんですか」


そう畳み掛けると、樹さんがイラッとした目を私に向けた。
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