婚前同居~イジワル御曹司とひとつ屋根の下~
「なんと言われても、私にとってはキスなんです!」

「っ、生駒。そういうことデカイ声で言うな……って……あああっ!!」


私を咎めるようにわずかに腰を浮かせた樹さんが、次の私の行動にギョッとして、大声を上げた。


「おまっ……俺、まだ保存してない航行管理書作成中だったんだぞ!」

「えっ……」


乱暴にも、パソコン本体を強制終了させた私に、樹さんが大声を上げた。


「俺の朝からの仕事、全部パアじゃねえか。ほんとお前、なにしやがるんだよ!」

「うっ。ごめんなさい。でも、朝から一度も保存しなかった樹さんも悪いんじゃ……!」

「会議だ来客だって中断されて、忘れてたんだよっ」

「え、えーっと……春海さん? どうし……」


さすがにその声につられて、何人かの先輩たちが窺うように近寄ってくる。
樹さんの剣幕にさすがにちょっと、マズかったかな、と私の胸にも不安が過る。
だけど。

「も、もう、樹さん! 朝からの成果は水の泡になったことだしっ……! 航行管理書じゃ、一からやったら今日中には終わんないでしょ。ですから。もう今日は諦めて帰ってくださいっ」


ここはもう開き直って、私は背を仰け反らせて胸を張った。
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