婚前同居~イジワル御曹司とひとつ屋根の下~
群がってきた先輩たちも『げ』と顔を引き攣らせているから、樹さんから仕事する気を削ぐ為とは言え、とんでもないことをしたのは自分でもわかる。
けれど。


「……はああ……わかったよ。帰りゃいいんだろ、帰りゃ」


オロオロと顔を見合わせている先輩たちの前で、樹さんは肩を落とし白旗を揚げた。
大きく深い溜め息をついて、ものすごい恨みの籠った瞳をキッと私に向けてくる。


「その代わり、生駒。今お前がパアにしてくれたとこまで、全部一から作り直しておけ。俺じゃかかりっきりでやる時間がないから一日じゃ終わらないかもしれないが、お前の時間は有り余ってんだから、そのくらいお手の物だろ」


その上、ビシッと眉間に長い人差し指を突き付けられる。
私は反射的に背を仰け反らせてしまった。


「えっ……で、でも私、やったことな……」


さすがに怯みながら返事をすると、樹さんは、ふんと鼻を鳴らしながら椅子に腰を下ろした。


「やったことなくてもやってみろ。俺だって最初は初めてだったよ」


完全に不貞腐れて、揚げ足をとってそんなことを言ってくるけれど、樹さんは大人しくデスクの上を片付け始めた。
どうやら、大人しく早退する気になってくれたようで、そこだけはホッとする。
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