婚前同居~イジワル御曹司とひとつ屋根の下~
その日、普段は滅多に必要のない残業を一時間して、オフィスを飛び出した。
途中ドラッグストアとスーパーに駆け込んで、両手に荷物を提げてマンションに帰る。


エントランスのコンシェルジュさんに挨拶をして、樹さんがちゃんと部屋にいるっぽいことを聞いて、ちょっとホッと息をつく。


フロアに上がり、廊下を一番奥まで突き進み、角部屋のドアを開けて玄関に入った。
見下ろした床には、ちゃんと樹さんの革靴が置かれていた。


「樹さん……!」


靴を脱ぎ散らかして、廊下を駆け抜けた。


リビングは真っ暗。
いつも私が帰った時と部屋全体の様子はなにも変わりない。


キッチンのカウンターの前でドサッと荷物を置いて、私はまっすぐ樹さんの部屋に向かった。
ドアの隙間から、中の明かりが細く漏れている。


よかった、ちゃんと部屋にいる!


今度こそ心の底からホッとして、私は軽いノックをしただけで、ほとんど同時にドアを開けた。
もちろん、眠ってると思っていたから、返事なんか待たなかった。
けれど。


「おい、勝手に入ってくるな。ノックするなら、返事くらい待て」

「っ……!?」


足を踏み込んだ途端、そんな低い声に迎えられた。
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