婚前同居~イジワル御曹司とひとつ屋根の下~
反射的に身体をビクッと震わせ足を止め……瞬時に目に飛び込んできた樹さんの裸の背中から目を逸らそうと、慌ててクルッと身体の向きを変えた。


「ご、ごめんなさい! 寝てると思ってたのでっ……」


初日に見たことがあると言っても、見慣れるもんじゃない。
ドキドキバクバクと騒ぎ出す胸をぎゅうっと押さえながらそんな言い訳をすると、「ああ」と意外とシレッとした返事が返ってきた。


「さっきまでな。医者に寄ったら、やたら強い薬処方されて爆睡してた。おかげでいくらか熱も下がったし、汗掻いて気持ち悪かったからシャワー浴びてたんだよ」

「そ、そうでしたか。……ちゃんとお医者さん行ってくれたんですね……」


声がひっくり返りそうになるのを意識しながら、そおっと肩越しに樹さんを見遣る。
彼は腕に通したロングTシャツを頭からスポッと被ったところで、私はホッとしながら樹さんの方に再び身体を向けた。


それに気付いたのか、樹さんは携帯で時間を確認して私に横目を向けてくる。


「お前にしては遅い帰宅だな。寄り道でもしてたのか」


鼻の下に手の甲を当て軽く鼻を啜る樹さんに、私は俯きながら一歩近寄った。


「あの……航行管理書と格闘してまして……」

「なんだ。マジでやったのか。別によかったのに」
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