ひと月の妹

「本当に忙しい婚約者だね」

いつのまにか佳澄の後ろには、

秘書の佐藤信也が立っていた。

驚きもせずに彼女は振り返る。

「仕方がないわ」

「お忙しいのはあたりまえな方だもの」

「結婚してもキミは構ってもらえないんじゃないのか?」

「今は大切な時期だと聞いているわ」

「だから・・・あなたの事も大目に見て下さるそうよ」

佳澄は佐藤のネクタイを直しながらクスッと小さく笑った。

「キミの未来の母上は随分とお優しい人だね」

「そうみたい」

笑顔で向きを変えて

応接室のドアを開けながら

「夜の食事は何にする?」

二人は歩きながら風景の中に

いつしか溶け込んでいった。

 
 

 

 

 

 

 
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