夕闇がきみを奪う前に
あいつの葬式の帰り道、俺は川辺を歩きながら、ポケットに入れたままの指輪をどうしようかって考えてたんだ。

川辺の道っていうのはさ、俺とあいつが小学生の時に一緒に登下校した道でさ、すごい懐かしかったんだ。

俺は小学生の時のあいつを思い出しながら、指輪をずっと握っていた。

もういっそ、こんなもの、放り投げてしまおうかって思ったんだよ。

あいつにも渡せない、あいつの墓にも持っていけないものを、これから先俺はどうしたらいいんだよって思ったんだ。俺、ばかだろ?

いざ放り投げようと腕を上げるとさ、あいつの声を思いだしてやっぱりできないんだよ。


『ずっと一緒にいたいな』


正直、ずるいと思ったね。


その言葉だけで、俺の心の全部を支配する。


優しくてさ。

愛しくてさ。

悲しくてさ。

悔しくてさ。


いろんな感情がごちゃ混ぜになって、もうなんていう名前をつけたらいいのかさえ分からなくなって、それが心からあふれたとき俺は叫んだ。


言葉にならなかった。


肺の底から空気を吐き出すように、感情を吐き出した。

この時の俺はさ、無くなってしまえばいいって思ったんだ。


息も、声も、この体も、心も、もう、もう、もう、全部なくなってしまえばいいって。


だけど叫び終わって息を思い切り吸い込むとさ、ああ、生きてるって実感するんだよ。


生きてるって思うとさ、嬉しくて悲しくてどうしようもないんだよ。


俺、ほんとバカだろ?

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