夕闇がきみを奪う前に
『俺』はあいつに追いつくと、なんだかんだと言われて面倒くさがっているようだ。

体格から考えて年齢は大体6、7歳と言ったところだろうか。


小学校1年生の、夏。

あいつと俺が初めて海に来たのもその時期だったな。

それに、あいつのセリフ。


もしかして、俺はタイムトリップでもしているのだろうか?


ふっと思い浮かんだ考え。

いやいや、そんなことあるわけない。

ありえないだろ、とそうやって笑い飛ばしてしまいたいのに、妙にしっくりくる考えに、身の毛がよだつほど納得してしまう。

仮に、タイムトリップだとしても、だ。


俺はなんでタイムトリップなんてしてしまった?

魔法も超能力も、力と呼べるものは何一つないだろう。


そこでふっと思い出した。

…まさか、アレか?



『俺、もう一度あいつに会いたいんだ』



アルバム見ながら神頼みした、このセリフか?


いやいや、そんな簡単に叶うわけがないだろ。

神様を残酷だって思ってしまったんだぞ、そんなの叶うどころか、神様に嫌われたって仕方がないだろう。


「海入ろー!」


あいつの明るい声でまた現実に戻される。


「まってよ、慌てると転んで…」

「ユキもおいでよ!」


海にかけていくあいつの楽しそうな笑顔。

転ぶんじゃないかとヒヤヒヤしている俺。


もうこれ以上増えることのない、あいつと大切な思い出。


…なあ、神様。

もしあんたがこれを俺に見せようと思って、俺をこの時間に連れてきたのだとしたら。


あんたは俺にどうさせたいんだよ?


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