夕闇がきみを奪う前に
どうすることもできなくて、俺は海小屋の影に入りながらぼうっとあいつと『俺』を見ていた。


海の中に入って水をかけあったり、砂の城を作ったり。

楽しそうなあいつの笑顔は、行動は、生き生きしていていつまでも見ていられた。


…この時は、さ。

まさか思いもしなかったんだ。

あいつが成人した日に亡くなってしまうなんて。

あいつの願いのひとつも叶えてやれないまま、あいつが逝ってしまうなんて。

それを俺がこんなにも後悔することさえも。


永遠さえ感じていたんだ。

この時が、この関係が、このままいつまでも続くって。

そんな予感でいっぱいだったんだ。


傲慢だろうか、そんな考え。


もしそうだとしてもさ、許してくれよ。

まだこの時の俺は6年しか生きてなかったんだ。

ちょっとだけでも、人生が楽しいものだって、嬉しいものだって、思わせてくれよ。

希望を見させてくれよ。


その分の絶望は、今味わっているからさ。



「マ、マ」


不意に聞こえた頼りない声にドキリと心臓は跳ねた。


「ママ、どこ? ユキ、どこ?」


目の前に、ついさっきまで海で遊んでいたと思っていたあいつの姿があったから。


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