夕闇がきみを奪う前に
「ユキ、どこ?」


不安そうにあたりを見渡すあいつ。

ジュースを両手に二つもっているところからして、海小屋でジュースを買った帰りに迷子にでもなったのだろうか。

確かに迷子になりかねない人の多さ。

砂浜にはいくつものテントやパラソルが立ち並んで、見通しの悪さはこの上ない。


「ユキ」


泣いてしまいそうなあいつの声に、俺はもうどうしようもできなくなって「どうしたの」と声をかけてしまった。

うるんだ瞳が俺を見上げる。


この人、誰?


きっとそう思ってる。

不安げな瞳に恐怖の色がほんのり色づく。


仕方がないことだ。今のこいつにとって俺は見知らぬ大人。

分かっているのに、少し胸が痛い。


「迷子かな?探すの手伝ってあげるよ」


できる限り優しい声と笑顔でそういうと、あいつは目を見開いて「ほんと?」と震えた小さな声で問う。


「うん」


頷くと、少しだけ笑顔になった。

身内には見せない、他人に見せるその表情。

それは切なくて、悲しくて、胸が痛んでしかたないけど、それも心の奥底に押しやって、俺は「行こうか」と微笑んだ。

< 17 / 53 >

この作品をシェア

pagetop