夕闇がきみを奪う前に
きっと、この時を生きる俺なら、こいつの知っている『俺』なら同じように思えたのかもしれない。

同じように見れて、同じように感じられたかもしれない。


こいつは俺の知ってるこいつではないんだと、

俺はこのときのこいつとともに生きている俺じゃないんだと、

強く強く突き付けられたような感覚がした。


胸倉をつかまれるような、頭を思いっきり叩かれるような、強い衝撃。


やっぱり、あいつはどこにもいないんだって。

過去に戻って、あいつに会えたとしても、やっぱり俺の求めているあいつには出会えないんだって、言われているような気がした。


…なあ、神様。

あんたは俺にそれを伝えたかったのか?

あいつにもう一度会いたいなんて、そんなこと叶いっこないって、それを分からせるために、こんなことをしたのかよ?

いくらなんでも残酷すぎるだろ。

なあ、すげえ痛いよ、心が。

心が折れそう、じゃなくて、砕けてしまいそうだ。

バラバラに、粉々に。


あいつに会えたのに。

こんな近くにいるのに。


嬉しいどころか、悲しいよ。

心が痛くて仕方ねえよ。


思わず涙が出そうになってしまうのを必死でこらえて、「あ、あれじゃない?」とわざと明るい声で、おどけるようにそう言った。


「あの赤いテント、違う?」


俺が指さした赤いテントを見つけると、「あ、ほんとだ!」とあいつは急に笑顔になって走り出していった。


「ジュースこぼさないように気を付けて!」


慌てて声をかけると、近くにいたあいつのお母さんがあいつに気づいた。


「どこに行ってたの!遅かったわね」


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