夕闇がきみを奪う前に
きみに、会いに行く
目を開けると、そこはやっぱり俺の部屋だった。

窓の外で風に揺れる木の葉は美しい秋色に染め上げられている。

夕陽が眩しいくらいに部屋を照らしていた。

カーカー、とからすの呑気な声が遠くから聞こえる。


ああ、秋だ。

真夏なんかじゃない。


未だに滴る汗を拭う。もうすっかりそれは冷えていて、じっとしていたら風邪を引いてしまいそうだ。


「なんだったんだ、今の…」


視線を床に落とせば、開いたままのアルバムが目に写る。

ピントがあった瞬間、凍りつくみたいに、雷が落ちたみたいに、衝撃が体を駆け抜けた。

急に恐ろしくなって、体が震えて身の毛がよだつ。


…おいおい、まじかよ。

なんのファンタジーだよ。


開かれたアルバムのページをよく見ると、そこに貼られていたのは、小学校1年生の夏、初めて海に行ったときの写真。

眩しい笑顔でピースするあいつが写った、


俺があいつに恋をしたときの、あの日の写真だった。



俺はそっとそれに近づいて、指でなぞる。

今度は何も起こらない。

ほっと一安心して、またあいつの笑顔をなぞった。



__ああ、俺、ほんとにタイムスリップしたんだな。


あいつに、会ったんだな。話せたんだな。


時間軸は違うけれど。


もう片方の手でズボンのポケットから指輪を取り出す。


きらきら夕陽に輝くそれを見て、あいつの言葉を思い出していた。

< 22 / 53 >

この作品をシェア

pagetop