夕闇がきみを奪う前に
「アカリ!」

気が付けば、叫んでいた。

あいつは俺の声にはっと振り返ると、ふわりと笑った。

「どうしたの、よくわかったね、私がここにいること」

驚いた、とあいつは言う。

俺は息を切らしながら「バーカ」とそれだけ言った。

「え!?いきなりひっどい!」

ぷう、と頬を膨らませて怒るが、全然怖くない。むしろ可愛くて愛しくてたまらない。

となりにいた看護師に気づいて、俺は会釈した。

看護師は微笑みながら会釈をかえしてくれて、気をつかったのか「少し仕事を思い出しました。少し戻ります」と言って病院の方に帰って行った。

「また何かあったら連絡してくださいよー!」

快活な声で呼びかけながら遠ざかる看護師を見送ると、俺らは2人きりになってしまった。

少しだけ、ほんと少しだけ、気まずい。


「どうしたの、ほんとに」


いつものユキらしくない、とあいつは俺を笑い飛ばした。

確かにそうかもしれねえ、と思った。

自分で自分を笑えるくらいには、情けねえって思った。


「なんでもねえよ」


俺は笑った。

少しだけ嘘をついた。

悪いことをしたと思った。

でも本当のことを言えるわけがなかった。

俺は、どこまでも最低だ。

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