夕闇がきみを奪う前に
「ふーん」

あいつは笑うと俺のことをほっぽりだして、芝生の上を歩き出した。

「今日は気持ちがいーね」

んー、と伸びをするあいつは陽の光を浴びて、まるで天使のように見えた。

これから羽が生えて本当に天使になってしまうんだと思うと、胸が締め付けられるみたいに痛かった。


「そうだな」


痛みをこらえて言えたのは、そんな当たり障りのない答えだった。

するとあいつは振り返って眉間にしわを寄せる。


「もー、ほんと、どうしたのよ、ユキ」


ユキらしくないよ、とあいつは俺に詰め寄った。


「体調悪いの?」

「いや、そんなことは」

「じゃあなに?」

「いや…」


クソ、尋問に耐えられない。

諦めようとしたときに、不意にポケットの存在を思い出した。


「お前、今日誕生日だろ?」


するとあいつは目を点にした。


「…覚えてて、くれたの?」


不安そうな声をするから「ばーか」と俺は笑い飛ばしてやった。

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