夕闇がきみを奪う前に
「当たり前だろ。彼女の誕生日くらい覚えて当然だっつの」

するとあいつはふにゃりと笑って「ヘヘッ」と嬉しそうな顔をする。

この顔が死ぬほどかわいいんだよ、クソ。

体温の上昇を感じながら、俺はポケットからそれを取り出した。

それから俺はあいつに跪いた。


「ど、どうしたの、急に」


あいつは慌てだしたけど、俺は気に留めなかった。



「俺はお前が好きだ」



あいつは面食らっていた。

何をいきなり言い出すんだと、あいつは驚いたのだろう。


「必ず幸せにする」


そんなあいつの動揺も見て見ぬふりして、俺は言葉を続けた。

それから指輪をあいつに見せるように差し出した。

あいつが息を飲むのが分かった。




「俺と結婚してください」




夕日には少し早い太陽に輝くそれは、


あいつの希望を象徴つけるもの。


あいつと俺の、幸福な未来を願うもの。


ずっとあいつに渡したかったもの。

ずっと渡せなくて後悔してたもの。


ああ、今、この瞬間を、俺はどれだけ願っただろう。どれだけ望んだだろう。

世界の中心がここにあるような気さえしていた。


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