夕闇がきみを奪う前に
あいつは何も言わずに地面に座り込んだ。

「お、おい」

体調が悪くなったのかと問おうとしたが、あいつは「いいの?」と言った。

「なにが」

間髪入れずに聞き返すと、あいつは少し言葉に詰まりながら「だって!」と大きな声を出した。


「あたしっ、病気なんだよ…っ!この先…っ、長く生きられないかもしれないんだよっ…!」


涙で滲んだ声だった。


胸がぎゅっとなった。

ぎゅって、息ができなくなるかと思った。


…そういえば、母さんが言ってたな。

あいつ、自分がもうすぐ病で死ぬことを知ってたって。


それで、こんなことを言うのか。


ほんと、バカだ。


「馬鹿だよ、お前は」


世界でいちばん、バカヤローだ。


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