夕闇がきみを奪う前に
今いる場所から病院のエントランスまでは少し距離がある。

ひろばとエントランスは隣同士だが、あいつが遠くまで散歩したせいで、5分以上は歩かなければならない。ったく、どんだけテンション高かったんだよ。


「ねえ、もう夕焼けだね」

陽が落ちるのは早いなあ、なんてあいつは呑気に笑う。


「…そうだな」


俺は愛想笑いすらできなかった。


「ねえ、ユキ」


『ユキ』


耳から聞こえたあいつの声と、頭に響くあいつの声が重なる。

頭が痛い。まるでぐーっと上から何かに押さえつけられるような、圧力がかかっているような、そんな痛み。

思わず俺は跪いた。


「どっ、どうしたの?」


大丈夫だと答えたいのに、答えられない。


『ユキ、もう』


意識がもうろうとする。


「せっ、先生!先生呼んでくるから!」


あいつが走ってエントランスに向かう。


まずい、このままじゃ、あいつが車にひかれて__!



「ま…て…!」


声はとても小さく頼りない。

走っていってしまったあいつの耳にはもう届かない。

小さくなる背中に、待て、行くな、と何度も呼びかける。




「アカリ…!」



だけどあいつが遠すぎて、俺が名前を呼んだことすら、きっとあいつは知らないだろう。


「俺は、お前が…!」



好きだ。



そう言うときにはもう、俺は意識を手放していた。


ただ最後に頭の中に響いたのは。


『ユキ』


あいつの声だった。


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