夕闇がきみを奪う前に
『心配しすぎだって』


病室のベッドに横になって、あいつは笑う。


『大丈夫だから』


だけど、日を増すごとに、年を重ねるごとに、病気はあいつを蝕んでいった。


それからあいつは学校にこれないまま、俺達の学年は卒業して、俺は大学に進学した。


『なあ、お前さ、なんかほしいものある?』


俺が大学2年生のとき、あいつの20歳の誕生日に何を買おうか迷って、あいつに直接聞いた。


カッコ悪いよな、そんなの聞いてしまうなんて。

そういうのを何も聞かないで、あいつのほしいもんを買ってやれたらカッコよかったんだろうけど、生憎、俺にはそんな芸当できなかった。


あいつはさ、悩んで言ったんだ。



『そうだなあ。何もいらないから、ずっと一緒にいたいな』



やさしい穏やかな顔をしてさ。



『毎日ごはんを作って、一緒に食べて、お弁当作ってあげて、行ってらっしゃいって出勤を見送って、お帰りなさいって出迎えて。

休日には、そうだな、ときどき公園に行ったりしてさ』

ね、楽しそうでしょ。


そんな、どこにでもあるような、ありふれた、ささやかなしあわせを語ったんだ。


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