夕闇がきみを奪う前に
お前のことを忘れて生きるなんてこと、できねえよ。

絶対、できねえよ。

お前を覚えていることで、俺が辛くなったとしても。

お前との恋を終わらせていないせいで、俺が苦しむことになったとしても。

それこそ死ぬことになっても、この想いだけは、手放さない。


__バカ!


あいつは怒った。


__バカ!バカ!バカ!バカ!ユキのバカ!



バカ、バカ、と何度も何度も繰り返した。

涙を流しながら、繰り返していた。



__ユキのことが好きだから、私の分までユキには幸せになってほしいの!

私はもうこれ以上幸せになれないから…ユキには私以上に幸せになってもらわないと困るんだよ!バカ!


言葉の1つ1つがまるで刃物のように、俺の心臓に突き刺さる。

刃物のように鋭利なのに、どこか優しくて温かくて。


__私の代わりに、私の分まで幸せになってよ!


約束して、と涙を拭いて、お願い、とあいつは微笑んだ。

いつもほしいものをねだるときみたいに。

優しい声、甘い声。

だけど今日は、優しくて、甘くて、切ない。


余計忘れられなくなるだろうが、バカ。

< 47 / 53 >

この作品をシェア

pagetop