夕闇がきみを奪う前に
あいつは微笑んでいた。

目を細めて、にっこりと笑っていた。

それがいつもと同じだから、余計寂しくて。


やっぱり、忘れたくないって思った。

絶対忘れたくないって思った。


だって、あいつとの思い出は、あいつが生きていた証だから。


俺が忘れたら、あいつは俺の中から死んでいく。

1回目の死を肉体の死とするなら、それは2回目の死。

それは1度目の死よりずっと悲しくて、寂しくて。

俺は絶対、忘れたくない。

これ以上あいつのことを失いたくないって思うから。


だけど、忘れたくないって言ったら、お前は怒るんだろ?

幸せになれないって言うんだろ?


だったら、証明してやる。

お前のことを覚えていても幸せになれるって。

今よりずっと、幸せになれるって。

だから見てろよ、ちゃんと俺のこと。


あいつは見てるよって言った。


__ちゃんと見てる。ユキが幸せになっているところ。ちゃんと、見てるから。


幸せになるんだよ、とあいつが泣きながら微笑むから、俺まで涙腺が緩んでいく。


__あはは、なんで泣いてるの?


うるせえよバカ。

自分だって泣いてるくせに。



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