夕闇がきみを奪う前に
あと何年か、何十年か、月日が流れて、いつか俺がそっちの世界に行ったら。

ちゃんと出迎えてくれよ?そっちの世界は広そうだし、お前の方が早く逝ったんだから詳しいだろ?

あとその時のお前がどれだけ幸せか聞くからな。今度会えるまでの宿題だ。

しょうがねえから俺以外の男と恋仲になっても怒らないで祝福してやるからさ。だからちゃんと幸せになってろよ。

もし悲しいことがあっても、一人になるな。誰かに慰めてもらえ。俺の代わりに。

あとは、そっちで風邪ひいたり、怪我したりするなよ。お前は身体が弱いイメージがあるからな。体調管理と交通事故には気を付けろ。

それから…あ?長い?面倒くさいなんて思うな。

俺がお前を大事に思っているからこそ長くなるんだろうが。愛だ、愛。


でもまあ、今日のところはこれくらいにしてやるよ。

近況報告もできたし、お前にいいたことは大体言えたからな。


また来るよ。

これから何度も来るよ。

だから忘れるなよ、俺のこと。


それから俺は立ち上がってあいつの墓に背を向けて空を見上げた。

空いっぱいに広がる、夕焼けのオレンジ。


息を吸い込んで、それから前を向いた。

意気揚々とまではいかないが、確かな足取りで家路に着く。意気消沈してトボトボしたような足取りじゃ、あいつに笑われてしまうからな。

その時そよ風が吹いて優しく頬を撫でた。

それでいいよ、とあいつに言われたような気がして、ふっと笑みがこぼれた。


「大好きだよ」


空に向かって呟いて、俺は再び歩き出した。

夕闇の空の東には濃紺が迫り、ひとつだけ星が瞬いていた。



fin.
< 52 / 53 >

この作品をシェア

pagetop