夕闇がきみを奪う前に
だけど、婚約指輪を買えるほどのお金を稼ぐのって、大学生には大変でさ。

高すぎる指輪はあげられないけど、安すぎるものもあげたくなくて。

デザインだって、あいつに似合うものがいい。

華奢で、だけど洗練されたもの。


ああ、これだ、って見つけたものは、予算よりちょっとだけ高くてさ。

ちょっとキツイな、諦めようかと思ったけど、あいつの笑顔を思い出したらさ、やっぱりこれだって思ったんだ。

小さなダイヤがついた、プラチナの指輪。


店に行っては指輪の値段を見て、バイトのシフトを入れて、働いて。

その時の俺はがむしゃらだったよ。

どうしてもあいつの誕生日に間に合わせたくてさ。


ようやく買いに行けたのは、10月7日

__あいつの誕生日の日。


夕闇が街を包み込んだ、午後6時前。


病院にお見舞いに行く直前のことだった。


お店に行ったら指輪がまだ売れててホッとしてさ。

『これください』って言ったら、『婚約指輪ですか?』って店員さんに聞かれて『そうです』って答えたけど、ちょっと恥ずかしかったね。


だけど嬉しかったんだ、『彼女さんも喜ばれますよ』って店員さんも嬉しそうに言ってくれてさ。


そうなったらいいなって、あいつの笑顔を思ったんだ。



それなのに。


どうして運命ってこんなに残酷なんだろうな。



『亡くなった…?』



指輪を買って、さあ病院に行こうかってときにかかってきた、俺のお母さんからの、涙声の電話。


俺は、運命を呪ったよ。


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