夕闇がきみを奪う前に

車はすぐにブレーキをかけていて、子どもとあいつにぶつかったものの、怪我自体は子どももあいつも軽症といえるものだった。

でもあいつは病気をしていて、体の機能も下がっていてさ。

本来なら大事に至らないはずの小さな怪我が、あいつにとっては致命傷だったんだ。


その怪我がもとで持病が悪化して、そのままあいつは逝ってしまったんだと。


それからもうひとつお母さんは言った。



『あの子、もう病気のせいで寿命が残り少なかったんだって。

それをあの子も知っていたんだって』



この言葉を聞いたときに、驚いたよ。

心臓を捕まれたみたいに、ドクンッて、胸が苦しくてさ。

まるで矢で刺されたみたいな痛みだったね。


同時に俺が憎いと思ったよ。


あんなに近くにいたのに、俺はなんの役にも立たなかった。

あいつに会う時間を割いてやれなかった。


指輪を買うためにって、バイトをたくさん入れて。

こんな風に一生会えなくなってしまうなら、そんな指輪、なんの価値もないのにさ。

指輪の入った袋を握りしめて、俺は自分とあいつの運命を呪ったよ。


どうしてあいつのことをもっと考えてやれなかったんだろう。

どうしてあいつのために時間を使ってやれなかったんだろう。


悔しくて、恨めしくて、いっそ自分の心臓をあいつにあげたいくらいに、心が痛くてしかたがなかったよ。


< 8 / 53 >

この作品をシェア

pagetop