夕闇がきみを奪う前に
車はすぐにブレーキをかけていて、子どもとあいつにぶつかったものの、怪我自体は子どももあいつも軽症といえるものだった。
でもあいつは病気をしていて、体の機能も下がっていてさ。
本来なら大事に至らないはずの小さな怪我が、あいつにとっては致命傷だったんだ。
その怪我がもとで持病が悪化して、そのままあいつは逝ってしまったんだと。
それからもうひとつお母さんは言った。
『あの子、もう病気のせいで寿命が残り少なかったんだって。
それをあの子も知っていたんだって』
この言葉を聞いたときに、驚いたよ。
心臓を捕まれたみたいに、ドクンッて、胸が苦しくてさ。
まるで矢で刺されたみたいな痛みだったね。
同時に俺が憎いと思ったよ。
あんなに近くにいたのに、俺はなんの役にも立たなかった。
あいつに会う時間を割いてやれなかった。
指輪を買うためにって、バイトをたくさん入れて。
こんな風に一生会えなくなってしまうなら、そんな指輪、なんの価値もないのにさ。
指輪の入った袋を握りしめて、俺は自分とあいつの運命を呪ったよ。
どうしてあいつのことをもっと考えてやれなかったんだろう。
どうしてあいつのために時間を使ってやれなかったんだろう。
悔しくて、恨めしくて、いっそ自分の心臓をあいつにあげたいくらいに、心が痛くてしかたがなかったよ。