夕闇がきみを奪う前に
それから3日後の10月10日、あいつの葬式の日。

俺は渡せなかった指輪をポケットにずっと入れていた。

指輪をどうしようかと思っていたんだ。

葬式の時にプロポーズしてあいつの棺桶に入れてやることも考えたし、実際あいつの両親からもそうやってくれって勧められた。


だけど俺はしなかった。


あいつの棺桶にいれてやることさえしなかった。


なんでだって親に言われたけど、俺は黙ってた。

俺はさ、生きているあいつに渡したかったんだ。

あいつの笑った顔が見たかったんだ。

あいつの希望になればいいなって思ったんだよ。

それなのに、それすらできなくてさ。


自分が腹立たしかった。


これは俺に対する罰だとも思ったんだ。


あいつが生きている時間に、その貴重な時間に、あいつのために時間を使ってやれなかったこと。

あいつに指輪を渡すことも、プロポーズすることもできなかったこと。


この指輪は、あいつにとっての希望で、俺にとっての願望で、俺の後悔の全てだ。


だからその指輪をあいつといっしょに葬ることなんてできないって思ったんだよ。

プロポーズも、あいつがいないのにできるわけないって思ったんだよ。


それをあいつのご両親に伝えたら、2人とも悲しそうに微笑んでくれた。


その顔を見て、ああ、俺はまた罪を一つ背負ったんだなって思ったよ。

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