午前四時のフェアリーテイル
星見台とはよく言ったものだ。

今にもこぼれてしまいそうなほど星が瞬いている。

こんなに星を見たことなんて、いつか小学生のころに山でキャンプしたとき以来だ。否、あの時よりずっと多いのかもしれない。

圧倒されるほどの星数だ。


「見たかった」


凛子は呟いた。

瞳には星のきらめきが注がれているように、澄んだ色をしていた。

凛子は確かに言ってしまえば変わり者だ。

凛子を変だと思う一方で、だけどそんな凛子が確かに羨ましかった。

その揺らぐことのない強い瞳は、言葉は、行動は、意思は、俺にはどこにも無い。

誰より強いその姿に、俺は憧れさえ抱いていたのかもしれない。

そんなことを思って、凛子を見つめた。

視界が凛子を捉えた瞬間、目を見開いた。


凛子の頬を、一筋の涙が伝う。


表情も、瞳も、いつもまっすぐな凛子そのものだ。いつもと何も変わりはないのに、ただその頬に涙が流れた。

ただそれだけのことなのに、俺は心臓を捕まれたみたい目が離せなかった。

ただあの凛子が泣いているのだと戸惑うばかりだった。

「凛子?」

辛うじてあいつの名前を呼べたが、ひどく頼りない声で情けない。

凛子はまっすぐ空を見つめたまま言った。


「星が、あまりに真っ直ぐだから。自分が情けないと思った」


それは俺のことだと言おうとして、だけど声は出なかった。

しばらくの沈黙の後、ようやく俺は声を出した。
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