夜が明けたら、いちばんに君に会いにいく
ああ、最悪だ。

家族には知られないようにこっそり出掛けようと思っていたのに。


「ふうん……誰と?」


お母さんが私の作った弁当を覗き込みながら言った。

正直に言うべきか、それともごまかそうかと悩んでいたら、すぐにお母さんが、


「とか訊くのは野暮よね。気をつけて行ってらっしゃい」


と笑った。


意表を突かれて、一瞬動きを止めてから、「……ありがとう」と答える。

お母さんはうふふと笑いながら、玲奈を連れて寝室へと戻って行った。


私が出かけたら家のことを手伝えなくなるから、お母さんは嫌がるかもしれない、と心配していたのに、快く送り出してくれる言葉に胸を打たれる。

と同時に、自分の考え方が卑屈で嫌らしいものだったと反省した。


時計を見ると、そろそろ時間だ。

サンドイッチを詰めた弁当箱をポーチに入れて、鞄を持って台所を出る。


青磁には、玄関ベルは鳴らさずに外で待っていてと伝えてあった。

まだ家族は寝ている時間だし、せっかくの休日に起こしてしまいたくない。


ひっそりと歩いて玄関まで来ると、階段の上のほうで足音がした。

見ると、お兄ちゃんがいつものぼさぼさ頭で降りてくるところだった。


「おはよう。ちょっと出掛けてくるね」


声をかけると、「そうか」と小さく言ったあと、「ひとりで行くわけじゃないよな」と訊きてきた。

お兄ちゃんが引きこもりになって以来、二言も返ってくるのは珍しかったので、少し驚く。


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