夜が明けたら、いちばんに君に会いにいく
ドアを開く。

隙間から見えるのは、まだ薄暗い街と、夜の色が残る空。


冬のはじめの朝はひどく静かだ。


「よう」


家の前に、青磁が立っていた。

紺色のコートのポケットに両手を入れて、薄いグレーのマフラーを巻いている。


「ちゃんと起きれたか、茜」


微笑んで言う青磁の、少しマフラーに隠れた口許から、白い息がふわりと空へと立ち昇った。


「おはよ。起きれたよ、私もともと早起きだし」


マスクの隙間から洩れた私の息も、外気に触れて白く染まった。


背後の玄関ドアを閉めようと振り向くと、リビングから出てきたお兄ちゃんが階段へ向かいながらこちらを見ていた。


私は小さく手を振り、ドアを閉めて鍵をかけた。


青磁が歩き出したので、後を追う。

制服以外の格好をしているのを見たのは初めてで、ただのコートにジーンズ姿なのに、妙にどきどきする。


自分の選んだ服が変ではないか、気になって落ち着かない。

たくさん歩くかもしれないと思って、私もジーンズにスニーカーを履いてきたけれど、こういうときくらいスカートのほうがよかっただろうか。

いや、でも、寒いし動きにくいし……と、とりとめのない考えを巡らせていると、青磁がふいに足をとめた。


そこは坂道の頂上で、ここから先は下りになっている。

だから、足下に広がる景色が一望できるのだ。


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