夜が明けたら、いちばんに君に会いにいく
震えてうまく動かない指で、マスクの紐を右耳から外した。

突然の外気に、右の頬だけが粟立つ。

反対側の紐も外した。


ぽろりとマスクが床に落ちた。


数ヵ月ぶりに、外でマスクを外した。


「……青磁! 行かないで!!」


外界との隔たりを失った私の声は、ホールに響き渡った。


青磁が弾かれたようにこちらを見上げる。

大きく目を見張っているのが分かった。


無数の視線が突き刺さる。

美術館中の人たちが私を見ている気がした。

私の醜い素顔をみんなが見ている気がした。


でも、いい。

青磁が私を見てくれるなら、誰に見られたっていい。


私は手すりに身体をあずける。

このまま青磁に逃げられてしまわないように、下へと飛び降りようと思った。


その瞬間、「馬鹿!」と叫ぶ声が響き渡った。

青磁がこちらを見上げながらホールを突っ切って駆け寄ってくる。


「やめろ、馬鹿か! 危ねえだろ!!」


慌てたような青磁の様子がおかしくて、ふふっと笑いがもれた。


「青磁が逃げないなら、飛び降りないよ」

「……分かった。分かったから、大人しくそこにいろ」


青磁は呆れたように言って、階段に向かって歩き出した。

それを確認して、私は手すりから降りた。


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