夜が明けたら、いちばんに君に会いにいく
体育館の外から蝉の声が入り込んでくる。

耳許で鳴いているんじゃないかと思うくらい、うるさい。


くらりと視界が揺れるような感覚がして、私はゆっくりとしゃがみこんだ。


「茜」


目の前に影が差す。

青磁だ。


頭上の窓から射し込む目映い光の中で、その髪はむかつくくらい綺麗に白く透き通る。


「……なに」


低く返すと、青磁はくっと眉をあげた。


「何怒ってんだよ」

「怒ってないし」

「怒ってんだろ。分かるわ、馬鹿」


うるさい。

蝉も、青磁も、リハーサルの声も、全部うるさい。


「……ほっといて」


声を抑えて返し、膝を抱えて俯く。

マスクの縁に汗がたまって湿り、気持ちが悪かった。


「気分が悪いのか」


青磁は無感情な声でそう訊ねてきた。


私は「違う」とだけ短く返したけれど、それ以上しゃべる気力がなかった。


「ふうん。ならいいけど」


とすっと音がして、隣に青磁が座り込んだのが気配で分かった。


「お前、リハちゃんと見てた?」

「……見てたよ」

「どうだった? なんか言うことないのか、委員長的に」

「……ないよ、そんなの」


マスクを通った声は、どうしてもくぐもってしまう。


「青磁に任せるよ。あんたが良いと思うなら良いんじゃない」


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