いつも酔ってる林檎さんが、イケメン毒舌上司に呪いをかけるお話
1杯目はとりあえずで、シャンパンを空けた。1つの瓶を皆で分け合うという儀式が、ビールよりも一体感を味わえる気がするのは、あたしだけかな。乾杯!
「って、みんなそれを口実に飲みたいだけでしょ。特に、まゆは」
「バレたか」
もう早速、日本酒に突入よーん。2度目の乾杯っ。
くうぅぅぅぅぅー……沁みる。久しぶりのお酒は、まるで身体の底から煽られるような熱気が、ぶぅわっ!と込み上げた。この所の鬱屈した気分を浄化している、そんな気がする。アルコール消毒というのも、あながち間違いじゃない。
「えー、この場を借りまして」
「何だよぉ。渡部もとうとう結婚か。林檎さんと」
「へへ。バレたか」
「おーい、林檎さんは別の人と結婚だろ」とブチ込んだ外野を、あたしはメンチ切って黙らせると、「ちょっと」渡部くんの頭をぱこん!と叩いた。あたしの不名誉なあだ名の原因は、確実にオマエにある。明日からも覚悟しいや。
「いえいえ。実は僕も昇進というか、異動が決まりそうでして」
「え、うそ」
少々、酔いが吹っ飛んだ。「あたし、聞いてないよ……」
「僕もさっき聞いたばかりで。内々ですけど、営業で美穂さんのチームに入るっす。林檎先輩とは離れたくないし、クリエイターの仕事も好きなんすけどね」
取って付けたように言ってくれちゃって。「ほら。林檎さんが別の人と結婚しちゃうから」と、またブチ込んで来た外野を、またまたメンチ切って黙らせた。
「すんません、報告が遅れて」
「いいよぉ。まぁ、よかったじゃん」
希望が叶って……。
渡部くんは元は営業職が希望だった。クリエイターで学んだ事は、きっとこれからも役に立つ。その愛嬌が別の意味で弾けてくれる事を祈って……乾杯。
ちくっと飲むと、それほど辛いお酒でもないのに舌にピリピリ来た。久しぶり過ぎて舌が敏感になっているのかな?とかって誤魔化すにも限界があるな。
美穂の昇進祝い。渡部くんの異動。新人の愚痴を聞いたり、宇佐美くんを鍛えたりで、何かと雑用ばかりのあたし。またまた置いて行かれたような。
水を飲んでもいないのに、急に冷やされるような感覚が襲ってくる。渡部くん、これでますます美穂んちに入り浸るなーと、またまた関係無い事をぐるぐる考えて、ぐいぐい煽って、いつの間にか日本酒の小瓶を1人で空けてしまった。
「お次は、同じ銘柄を純米大吟醸で」
そこに、「昇進おめでとう」と岩槻部長がやってきて合流した。1流企業、商社を中心に営業する部署をまとめている第1営業部のボスである。5階フロアの半分を占領、そしてこの部署は会社の売り上げの半分も占めていた。その配下、担当毎に幾つかチームが形成されていて、美穂はそのうちの1つを任されている。
「これ、僕から」と、昇進祝いに美穂は何やら貰った。
やる事がスマートでそつが無い。愛妻家というアドバンテージが岩槻部長の貫禄を一回り大きく見せている。美穂がとろけそうな笑顔で喜ぶのも頷ける。上司に取り入る、とは言い過ぎだが、こんな可愛気を見せる辺り、美穂のスキルの1つかもしれない。あたしには、それが無い。後輩に可愛気を発揮するなんて無いからなぁ。上杉部長に可愛気を奮うか?そんな機会は無い。つもりも無いけど。
話題は〝女性社員の間で抱かれたい男№1は第1営業部の男性で不動の地位を築いている、アイツ〟というトピックに移った。
「おいおい。それって僕?」
お酒も入ってか岩槻部長が無邪気にカマしてくれたけど、「部長、そろそろ現実見ましょう」と美穂がチクリと刺した。無論、違う男性社員の事である。
「だってあいつ結婚したよ?それでいいなら僕だって。ね?」
同意を求められたとあっては黙っていられない。「奥さんにチクりますよ」と、今度はあたしがチクリと殺った。
「おいおい。林檎さん、もう目が据わってる。怖いよう」
「いえいえ。まだまだ。怖いのはもうちょっと進んでからです」
美穂の言う通りだ。「部長、美穂をよろしくぅ」言いたい事言ったら、乾杯。
正直、今言っておかないと、1度も言わないまま宴会が終わる予感がしたので。
「でもそれは去年までの話で、最近ダークホースが現れたじゃないですか」
嫌な予感というのか。案の定、そこから〝上杉部長あるある〟が花開く。
「超イケてるじゃないですか。有能だし。みんな狙ってましたよ」
一瞬だけ、ですけど。
「あれ?林檎さんと結婚するとかいうのは」
またか。「もう、岩槻部長まで……」今までで1番鋭い目ヂカラで、岩槻部長に迫った。「あの男はね、あたしに向かってマネキンと結婚しろとか言うんですよ。そんな言い方ってあります?あれだけコキ使っておいて」
ここからがあたしの誤算だった。これを哀れと受け取る人が誰も居ない。全員が一斉に吹き出して、こりゃいい肴だとゲラゲラ笑った。言うんじゃなかった。
「あいつの言いそうな事だなぁ」と岩槻部長はまだ笑っている。
「いいです、もう。酒が不味くなるから、この話は止め」
「わぁ、赤くなってるぅ。林檎さん」
「それお酒のせいだから!」
みんなタチが悪い。分かっててイジるから、人聞きがますます悪くなる。
「すみません、刺身の盛り合わせと、次は生酒で!」
わざと大声を張り上げてみたけれど話題は切り替わらなかった。
あるある内容は、ハ虫類を飼ってる、セフレがいる、キャバ嬢に夢中、ハゲてる、どれもいつか聞いたな。新鮮味が無い。最後は上杉部長に恨みを持つクソ女が勝手に創り上げたんじゃないか。今はあたしもその悪意に乗っかりたい気分だ。
「せっかくだから、上杉部長も呼びません?」と美穂が言いだした。
何をキレた事を抜かすのか。それこそ、せっかく楽しいお酒を飲んでいるのに。
「嫌だ。あのクソメガネが来るならあたし帰るっ。うぷっ」と残りを一気飲み。
「帰れ」
「って、みんなそれを口実に飲みたいだけでしょ。特に、まゆは」
「バレたか」
もう早速、日本酒に突入よーん。2度目の乾杯っ。
くうぅぅぅぅぅー……沁みる。久しぶりのお酒は、まるで身体の底から煽られるような熱気が、ぶぅわっ!と込み上げた。この所の鬱屈した気分を浄化している、そんな気がする。アルコール消毒というのも、あながち間違いじゃない。
「えー、この場を借りまして」
「何だよぉ。渡部もとうとう結婚か。林檎さんと」
「へへ。バレたか」
「おーい、林檎さんは別の人と結婚だろ」とブチ込んだ外野を、あたしはメンチ切って黙らせると、「ちょっと」渡部くんの頭をぱこん!と叩いた。あたしの不名誉なあだ名の原因は、確実にオマエにある。明日からも覚悟しいや。
「いえいえ。実は僕も昇進というか、異動が決まりそうでして」
「え、うそ」
少々、酔いが吹っ飛んだ。「あたし、聞いてないよ……」
「僕もさっき聞いたばかりで。内々ですけど、営業で美穂さんのチームに入るっす。林檎先輩とは離れたくないし、クリエイターの仕事も好きなんすけどね」
取って付けたように言ってくれちゃって。「ほら。林檎さんが別の人と結婚しちゃうから」と、またブチ込んで来た外野を、またまたメンチ切って黙らせた。
「すんません、報告が遅れて」
「いいよぉ。まぁ、よかったじゃん」
希望が叶って……。
渡部くんは元は営業職が希望だった。クリエイターで学んだ事は、きっとこれからも役に立つ。その愛嬌が別の意味で弾けてくれる事を祈って……乾杯。
ちくっと飲むと、それほど辛いお酒でもないのに舌にピリピリ来た。久しぶり過ぎて舌が敏感になっているのかな?とかって誤魔化すにも限界があるな。
美穂の昇進祝い。渡部くんの異動。新人の愚痴を聞いたり、宇佐美くんを鍛えたりで、何かと雑用ばかりのあたし。またまた置いて行かれたような。
水を飲んでもいないのに、急に冷やされるような感覚が襲ってくる。渡部くん、これでますます美穂んちに入り浸るなーと、またまた関係無い事をぐるぐる考えて、ぐいぐい煽って、いつの間にか日本酒の小瓶を1人で空けてしまった。
「お次は、同じ銘柄を純米大吟醸で」
そこに、「昇進おめでとう」と岩槻部長がやってきて合流した。1流企業、商社を中心に営業する部署をまとめている第1営業部のボスである。5階フロアの半分を占領、そしてこの部署は会社の売り上げの半分も占めていた。その配下、担当毎に幾つかチームが形成されていて、美穂はそのうちの1つを任されている。
「これ、僕から」と、昇進祝いに美穂は何やら貰った。
やる事がスマートでそつが無い。愛妻家というアドバンテージが岩槻部長の貫禄を一回り大きく見せている。美穂がとろけそうな笑顔で喜ぶのも頷ける。上司に取り入る、とは言い過ぎだが、こんな可愛気を見せる辺り、美穂のスキルの1つかもしれない。あたしには、それが無い。後輩に可愛気を発揮するなんて無いからなぁ。上杉部長に可愛気を奮うか?そんな機会は無い。つもりも無いけど。
話題は〝女性社員の間で抱かれたい男№1は第1営業部の男性で不動の地位を築いている、アイツ〟というトピックに移った。
「おいおい。それって僕?」
お酒も入ってか岩槻部長が無邪気にカマしてくれたけど、「部長、そろそろ現実見ましょう」と美穂がチクリと刺した。無論、違う男性社員の事である。
「だってあいつ結婚したよ?それでいいなら僕だって。ね?」
同意を求められたとあっては黙っていられない。「奥さんにチクりますよ」と、今度はあたしがチクリと殺った。
「おいおい。林檎さん、もう目が据わってる。怖いよう」
「いえいえ。まだまだ。怖いのはもうちょっと進んでからです」
美穂の言う通りだ。「部長、美穂をよろしくぅ」言いたい事言ったら、乾杯。
正直、今言っておかないと、1度も言わないまま宴会が終わる予感がしたので。
「でもそれは去年までの話で、最近ダークホースが現れたじゃないですか」
嫌な予感というのか。案の定、そこから〝上杉部長あるある〟が花開く。
「超イケてるじゃないですか。有能だし。みんな狙ってましたよ」
一瞬だけ、ですけど。
「あれ?林檎さんと結婚するとかいうのは」
またか。「もう、岩槻部長まで……」今までで1番鋭い目ヂカラで、岩槻部長に迫った。「あの男はね、あたしに向かってマネキンと結婚しろとか言うんですよ。そんな言い方ってあります?あれだけコキ使っておいて」
ここからがあたしの誤算だった。これを哀れと受け取る人が誰も居ない。全員が一斉に吹き出して、こりゃいい肴だとゲラゲラ笑った。言うんじゃなかった。
「あいつの言いそうな事だなぁ」と岩槻部長はまだ笑っている。
「いいです、もう。酒が不味くなるから、この話は止め」
「わぁ、赤くなってるぅ。林檎さん」
「それお酒のせいだから!」
みんなタチが悪い。分かっててイジるから、人聞きがますます悪くなる。
「すみません、刺身の盛り合わせと、次は生酒で!」
わざと大声を張り上げてみたけれど話題は切り替わらなかった。
あるある内容は、ハ虫類を飼ってる、セフレがいる、キャバ嬢に夢中、ハゲてる、どれもいつか聞いたな。新鮮味が無い。最後は上杉部長に恨みを持つクソ女が勝手に創り上げたんじゃないか。今はあたしもその悪意に乗っかりたい気分だ。
「せっかくだから、上杉部長も呼びません?」と美穂が言いだした。
何をキレた事を抜かすのか。それこそ、せっかく楽しいお酒を飲んでいるのに。
「嫌だ。あのクソメガネが来るならあたし帰るっ。うぷっ」と残りを一気飲み。
「帰れ」