恋愛の始め方
やっぱり、何も感じない。

目の前にいるお母さんが、自分の患者と認識してしまったせいだろう。

そんなお母さんにゆっくりと近付き、首もとに触れる。

温かい。

目を覚まさなくても、一応生きているのだから、当たり前のことか。

目の前にいるのは、生きてる人間。

そう、ちゃんと認識だって出来ている。

なのに、どうして何も感じないの?

そんな自分に飽きれ、ため息が溢れた。

いつから、あたしはこんな風になったのだろう。

考えてみても、やっぱり答えなんてわからなかった。


「わりぃ。他の科の先生に捕まった」


悪いと言われるほど、待たされたわけではない。


「これが、お袋のカルテと写真だ」


ファイルと大き目の茶封筒を渡され、あたしはそれらに目を通す。

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