恋愛の始め方
だから、あたしは考えることを止めた。

直哉は自分の気持ちを整理するように、深いため息を溢した。


「わりぃ」

「気にしないで」


驚いたが、謝られるほどのことではない。


「志乃がうちの病院に来たら、なるべく早い段階で手術に入りたい。必要な検査等があるなら、前もって連絡くれ。こっちでしとくから」

「お願い。じゃ、あたしはこれで帰るわ」

「あぁ」


そして、あたしは病院を後にした。

長いようで、短い1ヶ月。

この間に、関係も立場も変わり、居場所もなくなってしまうなんて、そんなこと考えもしなかった。

時に流され、変わるものは沢山ある。

それなのに、変わらない今をあたしは求め過ぎていたのかもしれない。

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