恋愛の始め方
「直哉。お母さんの手術が終わって、一段落したら、あたし日本を離れようかと思ってる」

「海外に戻るのか?」

「そう、しようか悩んでる」

「悩んでるなら、やめとけ」


正直、意外だった。

直哉が、あたしの意見を反対するなんて。


「日本にも、志乃の腕を必要な患者は沢山いる。揺らぐぐらいなら、日本に居ろよ。まぁ、俺の質問も悪かったな」

「え?」

「心臓外科医じゃなく、志乃は救命医で居たいんだろ?」


あたしは、直哉の言葉に頷く。


「でも、前の病院には戻りたくないんだろ?」


その言葉に、あたしは苦笑いを零した。


「まぁ、いろいろ気まずいよな。看護師として働いてた奴が、いきなり医師として戻って来られても。それが理由じゃないんだろうけど」


きっと直哉はわかって居て、遠回しにそんなことを口にしているのだろう。

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